哀しみのなかに一抹の可笑しさが。

大型台風で家にひきこもる時間がぽっかりと生まれ、ここぞとばかりに映画を観る。DVDを借りに行くことさえせずに映画が観れるなんて、本当に便利な世の中になったものだ。


久々の映画の時間、と考えただけでるんるんしてしまう。そしてコーエン兄弟祭り!をすることに決定。(といっても2本だけど。)
昔から好きだけれど、やっぱりaddictiveだわ、彼らの作品。ふと足元をさらわれるような展開や、人を食った視点が絶妙。


トゥルー・グリット スペシャル・エディション [DVD]

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「トゥルーグリット」は飛行機の中に次いで2度目。これを機内で観たときは確か、「ブラックスワン」「市民ケーン(古っ!)」「トゥルーグリット」の3本を立て続けに観たのだが、私としてはそれぞれに2つ星★★、3つ星★★★、4つ星★★★★で、「トゥルーグリット」が一番面白かった。


60年代映画のリメイクだというが、そもそも私が西部劇に対する関心が薄く(というか昔から「戦う」映画、戦闘シーン全般に興味が持てない...)、オリジナルなど知る由もなく。


ここまで西部劇に食指が動かない私でも、面白い!と思えるのは、やはり監督の力だろう。ありきたりの「正義/ヒーローの物語」ではなく、復讐劇であるのに敵の死さえ淡々としている。あまりにも軽妙にバタバタと人が死んでいくので、可笑しくて仕方なかったが、もしかするとこれを「残酷」だと言う人もいるのか、と考えたり。


都知事のように「青少年の健全な育成」なんてものを謳う人たちは、表象の持つ力を何一つ理解していないのだろう。暴力描写や性描写は悪影響を及ぼす、という短絡的な発想は、優れた表象に触れていれば、またそれを読み解くリテラシーが備わっていれば、生じないはずだ。生々しい殺戮シーンよりもむしろ、平然と(so-called)正義を語ったり乱暴に権力を発動したりする人間のほうが余程残酷だと思うのだが。


シリアスマン」では一転して、冴えない大学教授の日常に訪れる不条理の数々を描く。その一つ一つは私たちにも共感できるような些細なできごとであっても、ここまで怒濤のように押し寄せてしまう不条理さは、フィクションらしくてシンプルに可笑しい。そう、主人公の彼の不幸さは、簡単に救われるようなものではなく、彼の必死に救いを求める声は神(この場合はユダヤ教のラビ)にさえなかなか届かない。


この2本が見せてくれるのは、悲劇や不幸の「やりすごしかた」かもしれない。人生には不条理が必ず紛れていて、どんなにその不幸を罵っても、どんなに善行を積み重ねても、脱却できないときがある。渦中にいる当事者は必死で、全力で立ち向かっているのだけれど、外から眺めればそのあがきはまるでドン・キホーテのように滑稽ですらある。


敵を倒すことや悪に立ち向かうことが不必要だ、というのではない。ただそれよりもまず、ガチガチに固まった自分の価値観や世界観をゆるやかに見直しながら、自分の駄目さも受け入れながら、しなやかに、ほがらかに、時にはてきとうに、生きていくほうが、お得なのかもしれない。そうすればどんな悲劇に見舞われても、どんな修羅場に突入しても、くすくすと笑える瞬間が、きっと訪れる。